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3.
カウンターに並んで腰を下ろすと、僕はシングルで水割りを頼んだ。
「あれ? ストレートじゃないの?」
そんなふうにカッコつけたがった時期もあったように思うが、今日は早めに切り上げることに重点を置いておく。
「いいんだよ。おまえは?」
「んー、じゃあ、マルガリータ」
すいぶん可愛い選択をするようになったもんだ。
「彼氏の趣味か」
「そんなとこね」
……少しは否定しろよ。
「今度は何だ? 年下か?」
「いやあねえ、とっかえひっかえ男と付き合ってるみたいに言わないでよ」
「違うのか?」
ケリが入った。
どうしてこう僕の周りには足癖の悪い女が多いんだろう。
「言っとくけど、今回はマジなんだから」
「――前にもそんなこと聞いた気がするぞ」
ふん、と口を尖らせた小枝子の横顔を見る。
そう言えばこの頃、いつも発していた棘々しいまでの張り詰めた空気は、糸が切れるみたいに薄れていた。
代わりに、落ち着いた女性らしい柔らかさを備えているように思う。
「……そうか。いい男なんだな、今度は」
「まあね。って、今度今度言わないでよもう」
珍しく照れている。
こいつにこんな顔をさせる男がいるなんて、驚きだった。
――ねえ、ケンちゃん。
いつだったか、付き合い始めたばかりの頃、夏菜に言われたことがある。
――最近、あたしの知ってるケンちゃんと違うような気がするの――
え? そうか? ――うん……うまく言えないんだけど――キライになったとか?
――うううん、そうじゃなくて――まあそりゃ、今までとは違うかもな――
そうだよね……あたしも、どこか変わってるのかな――
うーん……変わったと言えば、変わった……と思う――そういうものなのかなぁ――
怖い?
え?
顔を上げた夏菜が、じっと僕の目を見上げる。
それは確かに、僕が今まで見てきた夏菜の見せる表情とは違っていて。
よく知っているはずの二人が、まるで違う出会い方をしたようで――。
ふっと視線を落とした夏菜が柔らかく微笑むと、首を横に振った。僕は黙って、抱き寄せるしかなくて――。
「まーさーかーず」
「う、え?」
「なーにトリップしてんのよ。水割り一杯でイっちゃわないでくれる?」
「いやいやいや、恋は女を変えるもんだなぁと」
「何よそれ。どうせまた彼女ちゃんのことでも考えてたんでしょ」
僕は咳払いをして、水割りに口をつけた。
「図星か」
「うるせぇな」
「あーやだやだ。オジサンが高校生につかまっちゃって」
「……」
「つかまっちゃったんだね」
「……だから、俺のことはいいっての。――まあ、良かったよ。おまえにいい相手ができて」
「分かったようなこと言うなっての。一回寝たくらいで」
すんでのところで吹き出しそうになり、僕はむせ返った。
「あらやだ、動揺してる」
「……おまえな……」
「あの子結構いい勘してるみたいだもんねぇ。私のことも疑惑たっぷりの目で見てたし」
「そんなことないだろ」
「ニブイのは変わらないのね。下手すると知らないところで彼女を傷付けるわよ」
最後のはやけにマジだった。
「……気を付けるよ」
「そうして。とりあえずバラす気はないから」
「頼むよ、それはもうほんとに」
――遊びだったつもりはないけど、小枝子と恋愛できると思ったこともない。
まあ、つまりは、勢いというか。
一年以上も前のことだけど、こうして今でも気の置けない仲間でいられるのは感謝している。
――それでもやっぱり、夏菜には納得できる話じゃないだろうな。
「私にも覚えがあるけど、あのくらいの年頃の子ってある意味潔癖で頑固だからね。
今時の子はまた違うかも知れないけど――何でも受け入れられるってわけじゃないから、あんたが気を付けてあげないと」
ちょっと驚いて目を上げると、じろりと睨まれた。
「そう意外そうな顔をするんじゃないわよ」
「いや、うん。ご忠告痛み入ります」
僕はそう言って、慇懃に頭を下げてみせた。
じっと僕の顔を見つめていた小枝子が、ため息をついてゆっくりと首を左右に振る。
「――あんたって、やっぱり微妙にオヤジくさいわ」
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