Epilogue

結局、ここしか思いつかなかった。
月曜日。淳美のバイト先の近くの駅に、僕は立っていた。
会社や家に行くことも考えたが、警察を呼ばれても文句は言えないし、
あのまま僕を忘れていたら、ただのストーカーだと思われるだけだ。
なら、今ここでこうしているのはいいのかと言えば、甚だ自信はない。
あれから、一度も淳美からの連絡はない。
電話をかけることも考えたけれど、僕を知らない淳美に何を言っても分からないだろう。
――それなら、直接会うしかない。
人通りの多い場所で、とにかく話しかけてみれば、何か変わるかも知れない。
逃げられたらその時だ。
客のふりで一度会っているし、ナンパに失敗したものの諦めきれないということにしておくとか、
何か、話すきっかけになることを考えよう。
どういうわけか、話ができれば大丈夫だという気がしていた。
淳美は、きっと思い出す。
楽天的な要素は、父から受け継いでいるのかも知れない。
話したいことが、たくさんあるんだ。
お前の話も聞きたいんだ。
いつか、きちんと向かい合うことができたら、そこから始めたい。
――もう、僕を選んでくれないとしても、まっすぐに見つめ返せるようになりたいから。

少し疲れた顔をして、淳美が歩いて来るのが見えた。
どう声をかけようかと迷っていると、ふと顔を上げた目と視線が合う。
あ、という形に口を開けて、淳美が立ち止まる。
一度店に来た客を覚えているのか、それとも――。
まとわりついていた雑踏のざわめきが、遠ざかる。
視線を合わせたまま、僕はゆっくりと笑った。
淳美の瞳が、柔らかく細められた気がした。
背中を預けていた壁を離れ、僕は一歩を踏み出す。
息を吸う。口を開く。
最初の言葉は――。

                                        

〜fin〜



あと書き(?)はこちらです。

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