さんざん迷った。いくら元同級生だからとか、仕事場で偶然会っていろいろ話すようになったと言っても、
他人である僕が踏み込める範囲は限られている。
けれど、このまま何も聞いていないふりをして朋佳と会って、普通に話をすることができるんだろうか。
――バツイチ、という言葉の明るさを、僕は改めて考える。
結婚すら身近に感じることができない今、それはどこか遠い国の聞いたこともない言葉のように響いた。
確かに、今のような軽さも大事だとは思う。
一度結婚したら、一生添い遂げるのがもちろん理想ではあるけれど、
それに縛られて大切なものを見失うくらいなら、別々の道を歩いたほうがいい場合もある。
亜希子の両親がそうしようとしているように。
深い事情を訊くのはもちろん失礼だろう。ただ、僕がそのことを知っていることは、何らかの形で伝えなければならない。
そ知らぬ顔をして笑って話をすることだけが、正しいとは思えない。
何度かその話をしかけてはやめて、外回りから直帰する途中で朋佳からメールをもらった僕は、
帰宅途中の彼女と待ち合わせて一緒に食事をし、彼女の部屋の近くの店にお茶を飲みに寄った。
「……お茶で、いい?」
「え? いいけど、何で」
「いや、俺あんまり酒強くなくてさ」
「あ、そうなんだ」
へえ、という顔で笑った朋佳が、紅茶のカップを手にする。
「営業のくせに飲めないって、使えないんだけどな」
「いいんじゃない? 今は却ってそういう時代なんじゃないかなあ。禁酒禁煙のほうがいい、みたいな傾向」
なるほど、と思って、僕は軽く首を回す。
新製品の出回るこの季節は会議や打ち合わせが多くて、顧客を相手にするのとはまた別の疲労感があった。
「まあ、たまには、友達に付き合って軽く飲むけどさ」
今だ、と思った。
話の流れで、なんとなく、栄子に会ったことを伝えられる。
「うん。仕事で飲むのとは違うし、適度に楽しめればいいと思うよ」
微笑んでそんな台詞を言う朋佳に、僕は埋められない距離を感じて口を噤む。――君の、本当の声を聞ける時は、来るのだろうか。
「……その、飲みに行った時にさ」
「うん」
「橋詰に会った」
「え?」
飲みかけのカップから顔を上げた朋佳が、無表情に僕を見上げる。
「覚えてる?」
「……うん。橋詰さん、ね」
ごめん、という言葉が込み上げてくる。僕は何もできなかった。あいつが何をしていたか知っていたのに、止めもしなかった。
どうしてそんなことをするのか、訊くことすらなかった。
「元気だった?」
「――橋詰?」
「うん」
「ああ。まあ、元気なんじゃないかな。スナックみたいなとこでさ、働いてた」
ほんの少し、栄子に仕返しをしたような気分になる。そんな自分の小ささに、舌打ちしたくなった。
「へえ……。うん、綺麗な人だったもんね」
カップを受け皿に戻した朋佳と、黙って唇を噛む僕の間に、沈黙が音になって落ちてくる。
イジメのこと、離婚のこと、何をどう話せば、朋佳を傷付けずに済むのか。そう考えることすら、彼女を貶めていることになるのか。
「じゃあ、聞いたんだ」
「え」
「あたしの、離婚の話」
一気に、喉の奥に見えない塊が詰まる。僕はそれを飲み下そうとして、無言で朋佳の瞳を見つめ返した。
そこにあるのは、真っ直ぐで、迷いのない、不思議な強さを持った色だった。
凍り付いた僕を溶かすように、朋佳が微笑む。ゆっくりとカップを持ち上げて紅茶を一口飲み、小さく息を吐いた。
「去年、山本さんから電話があったの」
それは栄子の『取り巻き』の1人だった。僕の記憶の中には、ショートカットの髪を揺らして大きな声で話す制服姿がある。
同窓会の名簿を改めて作るから、連絡先を教えてほしいと、朋佳の実家に電話があったらしい。
その頃朋佳は実家にいて、仕事もしていなかった。今、何してるの、と訊く山本に、朋佳は正直に自分の状況を説明した。
「――結婚していた人と別れて、実家に帰って来て、仕事を探してる、て話したわ」
僕は思わず目を逸らして斜め前の壁を見つめた。どんな顔で朋佳を見ればいいのか、分からない。
「まあ、それはきっと、橋詰さん達からみんなに伝わるだろうと思って。
あたしは、同窓会に出る気はないから。近況報告はそれで充分かなって」
「……いや、何も言わなくても良かったんじゃないか?」
「そうかもね。でも、別にいいよ。隠すつもりもないし」
閉店時刻の近い喫茶店は空いていた。カウンターの中では、店主らしい40代に見える男が退屈そうに新聞を眺めている。
「――いつ?」
「何?」
「いや、その、いつ結婚したの」
「20歳の時。3年続いて、1年揉めて、別れて、1年実家にいたよ」
「……あ、そう」
苦い塊になった息を、ゆっくりと吐き出す。僕はとうとう朋佳と目を合わせられないまま、伝票を手に席を立った。
そこから5分も歩けば、朋佳の部屋に着く。僕は言葉を選んで、探して、結局は黙ったまま歩き続けた。
白い壁のアパートが見えてきた頃、朋佳が振り返って苦笑した。
「そんなに、気にしないでよ」
「え、いや……」
「もう、済んだことだから」
「うん」
アパートの入り口で立ち止まる。僕を見上げる朋佳の瞳を見つめ返して、じゃあ、と言いかける。
「話したほうがいい?」
「何を?」
「別れた理由」
笑って言う朋佳に、どうしようもなく哀しくなった。どうして君は、そこで笑っていられるんだ。
終ったこと。2年も前に、全部片付いたこと。そう、思えているんだろうか。
「――分からなかった」
「え?」
「彼――元の主人がね、何を考えてるのか、分からなかったの」
朋佳が結婚したのは、高校を出て2年会社勤めをしていた時だった。
取引先の担当者である彼と電話で話すうちに、だんだん親しくなって、外で会うことが増えていった。
8歳上だという彼に付いていくような形で、すぐに結婚を決めた。
けれど――無口で感情を表に出さない彼と一緒にいることは、朋佳の寂しさを増すばかりだった。
仕事に追われて、毎晩遅くなって帰ると、軽く食事をしてすぐに寝てしまう。休日に2人でいても、会話らしい会話が成立しない。
「……休みの日が来るのが、怖かったの」
「どうして? 休みの日くらい、いろいろ話してみれば良かったんじゃないか」
「うん。最初はそう思った。でも、何を話しても生返事で、あたしがいることも忘れてるような人と話すのは、つらかった」
1人で壁に向かって呟いているみたいだった、と、朋佳はまた笑う。
「もうダメだ、と思って、別れて、て、あたしから言ったの」
それに返ってきた彼の答えは、朋佳の望んでいたものではなかった。
今、会社で昇進の話が出てる。ここで離婚なんかしたら、上司の心証を害するから、もう少し待ってくれ。
1年、待った。どこかで彼が自分を見てくれること、仕事以外の理由で自分を引き留めてくれることを。
何度も話し合おうとした。お互いの本当の気持ちを、確かめようとした。
けれど、それから逃げるように、彼は自宅にいる時間を少なくしていった。
「1年経ったよ、て言ったら、分かった、て、それだけ」
軽く肩をすくめて、僕に向けて笑顔を作る。
そのまま凍りつかせて、叩き壊したくなるような笑顔だった。
「それは……ご主人が悪いんじゃないか」
「そう思う?」
「うん」
いくら仕事が忙しくたって、離婚を考えるまで追い詰められている妻に、そんな言葉しか言えないなんて。
――自分なら、どうだろう。まだ若くて時間を持て余しているような妻と、
ギリギリのスケジュールで動いている自分との間の溝を、埋める努力はできるだろうか。
「違うのよ」
「何が」
「悪いのは、みんな、あたしなの」
僕は朋佳の顔に張り付いた笑みを、どうにかして剥がしたいと思った。
けれどその方法も分からず、ただ、目を逸らさないでいることしかできない。
「――何で、おまえが悪いんだよ。そりゃ、夫婦のことだからさ、俺には分からないけど」
「違うの」
もう一度同じ言葉を言って、今度は首を横に振った。肩にかかるくらいの髪が、それに合わせて揺れる。
「あたしが、存在していることが悪いのよ」
「な……何バカなこと言ってんだ」
「そうなの。やっぱりあたしは、昔から変わってない。淘汰されるべきものでしかないの」
今にもひび割れて崩れていきそうな朋佳の笑顔が、頭から離れない。
どうしてそこまで、自分を追い詰めてしまうのか。
イジメの対象になっていたことと、結婚がうまくいかなかったことを、切り離して考えることはできないのか。
僕は携帯を開いて、朋佳のアドレスを呼び出して、しばらく画面を見つめた。
何を言えば、どんな形でなら、その瞳の奥に閉じ込めた光に追い付くことができるんだろう。
始業のチャイムが鳴って、みんなが自分の席の前に立つ。朝礼が始まり、課長が今日の予定について話すのをぼんやりと聞き流す。
「……おい」
「え?」
有也に腕を突付かれて小声で返事をすると、顔をしかめた有也が僕の向かいの席を指した。
「アコから、連絡あったか?」
向かいの亜希子の席は空だった。
いつもなら、始業の10分前には出社している。欠勤するとしても、その頃までには会社に連絡があった。
「いや……聞いてないけど」
「休みかな」
「どうだろ。遅刻なんて、珍しいけどな」
抑えた声で会話をしている間に、朝礼が終る。有也は席を立って、亜希子と仲のいい女子社員に話を聞きに行った。
「何も言って来ないらしいな。風邪でもひいたのか」
「知らないよ。電話かメールでもしてみれば?」
「……ああ」
どこか緊張した顔で、有也が携帯を取り出してメールを作成して送る。
しばらく待っても返事が返って来ないので、今度は部屋の隅に行って電話をかけていた。
「いた?」
眉を寄せて戻って来た有也に訊くと、ひとつため息を吐いてから顔を上げた。
「いや、いない。……つうか、アレだよ
『お客様のおかけになった電話は電波の届かないところにおられるか、電源が入っておりません』てやつ」
「どうしたんだろうな」
黙って机の引き出しを探っていた有也が、社員名簿を取り出した。机の上の電話の外線ボタンを押して、8桁の番号を押す。
「……自宅も、応答なしだ」
無断欠勤、ということになる。真面目な亜希子が連絡もなしに休むのは、どういうことだろう。やっぱり、家で何かあったのか。
「帰り、アコちゃんとこ寄ってみようぜ」
「うん」
2人で顔を見合わせて首を捻り、頭を切り替えて今日の仕事にかかった。
退社後に有也と一緒に向かった亜希子の家は、相変わらず人気がない。
一応インターフォンを押しても、自宅や携帯に電話をかけても、返事はなかった。
「――参ったな」
有也にしては珍しい台詞に、僕も暗い窓を見上げる。
「とりあえず……明日まで待ってみるか」
「そうだな。明日になっても連絡がつかなかったら……」
そこまで言った有也が、亜希子の家の玄関から僕に視線を移した。
「俺、課長に話して、場合によったら警察に知らせる」
「……だよな」
そこまで大事だとは思わなかったけれど、丸一日連絡がつかなかったら、それも視野に入れたほうがいいのかも知れない。
「とにかく、心当たりを探してはみる。セイ、アコが捕まったら、知らせてくれ」
「分かった」
駅前で有也と別れ、僕も念のために自分の携帯から亜希子を呼び出す。
『お客様のおかけになった電話は……』ダメだ。大きく息を吐いて、ひとまずは自分の部屋に帰ることにした。
亜希子のことも心配だけれど、朋佳の心に刻まれた傷の深さも、その意味も、彼女が出した答えも、僕の胸の奥にこびりついていた。
淘汰、という言葉を彼女は口にした。その場に不要な物、適応できない物が、消滅していくことだ。
僕もまた、自分を淘汰させようとしているのかも知れない。4年勤めた営業課から、有也と亜希子とのグループから。
そこに『自然』を付けてしまうことで、自分も周りも納得させようとしている。言い訳に使うには、簡単な言葉だ。
地元の駅に着いて改札を抜けた時、上着のポケットで携帯が鳴った。――亜希子だ。
「もしもし、アコちゃん?」
「あ、……セイ君?」
「どうした。どこにいるんだよ。黙って休むから、みんな心配してたぞ」
「ごめんなさい、あの……」
消え入りそうに震える声に、僕は耳を澄ませた。
亜希子の口から、僕の部屋の近くにある公園の名前が出て、思わず駅のほうを振り返る。
そこに、有也がいるとでも思ったかのように。
「……何で、そんなとこにいるの」
「ごめん、あの、セイ君、ここまで来られる?」
「来られるも何も、通り道だよ。ちょっと待ってろ、すぐ行くから」
「あの、でも」
「ん?」
「ユウ君には、言わないで」
「はあ?」
僕は携帯を耳から離して、通話中のランプの明かりを確かめた。
どうしてそんなことをしたんだろう。その向こうに亜希子がいて、本当のことを言っているのか確かめたかったんだろうか。
「――何で。あいつ、俺以上に心配してるぞ。分かってるだろうけど」
「嘘」
「あのなぁ」
足を速めながらため息を吐く。どうしてこの2人は、ここまで互いに素直じゃないんだ。
「とにかく、待ってるから。ユウ君に言わないでね、お願い」
そこまで言って電話が切れた。僕はもう一度携帯の画面を見つめ、諦めてポケットに戻すと、公園までの道を急いだ。
小さな公園のベンチに、ポツリと座っている亜希子を見つけた。脇には小ぶりのボストンバッグが置いてある。
アコちゃん、と声をかけるより前に、ため息が出た。――この状況を、有也にどう伝えればいいんだろう。
「あ……ごめんね」
「いや」
もう一度息を吐いて、亜希子の前に立つ。>
「どうしたんだよ」
「うん……昨夜、珍しく両親が早く帰って来て……」
自分の部屋にいた娘2人を居間に呼んだ両親の前には、記入済みの離婚届があった。
しばらく無言でその用紙を見つめていた4人だったが、
そのうちに母親のほうが夫を責める言葉を口にし、やがて言い争いになってしまった。
亜希子はなんとか宥めようとしたけれど、無表情にそれを眺めていた姉の一言で、場が静まった。
『あたしは、まだ結婚する気もないし、お父さんの籍に残ってここに住むから。
亜希子、あんた、お母さんとアパートでも借りて住んだら』
簡単に自分勝手なことを言う姉に反論する間もなく、慰謝料や養育費の話が出始め、
それはとても穏やかとは言えない口調で一進一退の話し合いになった。
やがて夜が明ける頃になって、ようやく疲れ果てた両親が出した結論は、亜希子と母親が他に部屋を借りて住むこと、
その費用は父が出し、その後は父が母と亜希子に生活費の一部を毎月送金する、というものだった。
「……それで、アコちゃんは納得したの」
したんならいいじゃないか、という言葉を飲み込んで、僕は亜希子の隣に腰を下ろした。
「あたしは、1人で部屋を借りるって言ったわ。自分のお給料でやっていくからって」
「うん。それでいいじゃん」
「ダメ。絶対許さないって、3人で言うの。保証人になんか、ならないからって」
「……で、出て来ちゃったわけか」
僕は亜希子と僕の間にあるボストンバッグに視線を向けて言った。黙って頷いた亜希子が、僕を見上げる。
「セイ君、しばらく泊めて」
「はあ? ちょっと待てよ。そんなことできるわけないだろ。
誰か、身内の人に間に入ってもらうか、保証人になってもらうかして部屋借りるとかできないの」
「うん……考えてみる、けど」
たった一日で、亜希子は急に痩せてしまったように見えた。一晩中続いた話し合いが、彼女にかけた負担は大きかったんだろう。
「黙って出て来たのか」
「うん。明け方、みんなが仮眠を取るって部屋に引き上げてから」
「じゃ、家の人も探してるんじゃないか?」
「知らない」
亜希子は携帯の電源を切っていた。今頃、本気で心配して探していたらどうするつもりだったんだろう。
ああ、それより、有也だ。少なくとも、間違いなく本気で心配しているヤツが1人いる。
今はもう夜10時を過ぎていた。あいつはまだ、亜希子の行きそうな場所を探しているかも知れない。
「セイ君、お願い」
「いや、無理だって」
「今日だけでいい。少し休ませて。あの家には帰りたくないし、行くところがないの」
「誰か……女の子の友達とかは」
亜希子は首を横に振り、両手で顔を覆って呟いた。
「……セイ君のところがいい。今日だけ、一緒にいて」
これをどう解釈すればいいんだ。僕は日頃の亜希子の態度を見ていても、僕に対する特別な好意があるとは思えなかった。
けど――こんな台詞を言われると、どういう形で受け止めればいいのか迷う。
「何で、俺のところに来るわけ?」
思いがけず、突き放した言い方になった。びくりと肩を震わせた亜希子が、堪え切れないように泣き出す。
「……なあ、ほんと、泊めてくれる友達くらいいるだろ?
ああ、そうだ、どこかビジネスホテルとかさ。今夜一晩ゆっくり休んで、明日休みだし、親戚に相談できそうな人探してみなよ」
亜希子はしゃくり上げながら、首を横に振った。
「セイ君、一緒にいて」
駄々を捏ねる子供と一緒だ。僕は男としてではなく、彼女の保護者のような気分に近くなってため息を吐いた。
「……今日だけ、一緒にいれば少しはマシなのか?」
「うん……ごめんなさい、お願い」
僕は時間を確かめ、携帯を取り出した。
「有也に、電話するから」
「え、何で」
「何でじゃないだろう。あいつは本気でアコちゃんの心配してんだよ。
無事だってことを知らせてやらなきゃ、一晩中探し回るかも知れない」
「だって……」
泣き腫らした顔を上げる亜希子の視線を捕まえて、僕は覚悟を決めた。
「……分かったよ。何で俺だか分からないけど、今夜一晩一緒にいれば、アコちゃんの気持ちが落ち着くんだろ?」
唇を噛んで頷く亜希子に、もう一度ため息を吐いて携帯を開く。
「有也には、うまく言っとく。駅の近くでアコちゃんを見つけて、家まで送ったって。
もう疲れて休んでるだろうから、明日連絡しろって、さ」
不安げに僕を見上げる亜希子の次の言葉は容易に想像できた。だから、僕はそれを先に口にする。
「もし、家族が心配していたら大変だから、お姉さんでも誰でも、メールくらいできるだろ?
友達のところに泊まるって、メールしとけ」
「……うん」
「一緒に考えてやるから。アコちゃんも、もっと本気で、自分がどうしたらいいか考えてみろよ」
黙って頷く亜希子を確認して、携帯で有也を呼び出した。
うまく言い訳ができるか不安があったけれど、思ったより簡単に、その言葉が口から出た。
「あ、俺。アコちゃんいたよ。――うちの近くの駅。今、家まで送ってった。
かなり疲れてるみたいだから、明日にでも話聞いてやればいいと思うけど」